創り手とは

カーボンファイバー製の自転車フレームって、20万円以上のものが大半だ。
しかし・・・それら高級フレームとそっくりの、ただし無彩色なフレームが、eBayなどに、2-5万円ほどで出品されているという。ひと呼んで、中華カーボンフレーム。製造元は、どうやら深センに1社、上海に1社。


欧・日・米のいろんなブランドが、カーボン製の自転車を手がけている。
しかし、実際に制作出来る工場って、そう数があるわけではなく、大半のブランドは、どこかに頼んで制作してもらっているそうな。

カーボン:多くの製造会社が中国の製造会社に自社カーボンフレーム製造を外注している。ハイエンド競技用フレームであっても。


してみると、この格安フレームの出自って、、

  1. OEM受託品の横流し
  2. 試作品・不合格品の横流し
  3. OEM受託品を、少しだけ設計変更し、自社製品として販売
  4. 設計・開発を製造元が元来やっていて、各有名ブランドは、それに自社ロゴと塗装をしているだけ
  5. 無関係な会社が、形だけコピー

・・・といったあたりなのかあぁ。


一昨年の暮には、”スペシャライズド”や”ピナレロ”の偽物フレームがインターネットで売買され、正規代理店から、”品質で劣る””保証対象外”と注意喚起の告知があった。偽物自転車パーツにご注意!@wiki - トップページ
あのときは、形状・塗装・ロゴとも、本物と似せてあって、簡単には見分けがつかなかった。価格も今回のように相場の1/10なんてことはなかったようだ。


一方、今回は。
ロゴも、塗装もなし。
形状は、とても似ているが、ジオメトリがほんの少し違っていたり、インテグラルシートポストでは無かったりするらしい。
もしも、形状検討や構造設計が製作元によってなされているならば、まったく意匠権の侵害にはならないかも。


で、どうやらものは、なかなかしっかりしているらしい。
剛性感や微振動吸収性は、アルミやクロモリとは段違いだというし、仕上げの粗さはあるが、一流ブランドのもそんなもんらしい。
耐久性はまだわからない。1例だけ走行1800kmで割れたという報告があった。
出荷に関しては、欠品や入れ間違いがちらほら報告されている。受注担当と出荷担当の連携も、あまりスムーズではなさそうだ。


たぶん・・・
各ブランドが、安定して販売してくれるうちは、わざわざこんなことをやろうとは想わなかったことだろう。
しかし、リーマンショック以来、高級自転車の売れ行きが落ちたのだろう。そして、工場の稼働率が維持できなくなった。しかも素材には使用期限があるという。
窮余の一策として、オンライン直売に至った。
同一仕様大量出荷を前提に受注・出荷業務を組んでるから、個人向け販売の業務フローが未確立で、まだどたばたしている・・・という感じなんじゃなかろうか。


いやいやそれとも、
設備投資して工場を持ったはいいけれど、組織運営や品質管理へのセンスがなくって、各ブランドから受注出来ず、
窮余の一策で偽物づくり、
それが摘発されたので、今度は無印品の格安販売・・・なのかもしれない。
いまのところ、堂々と名を名乗って、持続的・継続的にお客さんと付き合う姿勢は、なさそうだもんね。





保証はないけど、高性能で格安。
・・・DOS/V登場のころの、自作パソコンを思い出す。
元来自転車は、パソコンと似ている。デファクトスタンダードが各ジャンルにあって、規格がおおむね統一されているなかで、各部品メーカー・アッセンブリーメーカー・販社が、グローバルに競争と連携をしている。
でもこれまでは、
自作するより、完成品の方が安かった。
フレームは、部品よりも長寿命だった。
ヘッドの組み付け・BBの取り付け・車輪の組み立てには、なかなか高価な専用工具が必要だった。


趣味として、自分で組み立てるひとはたくさん居るけれど。
高価な専用工具がいる部分だけ、お店に依頼する手もあったけれど。
部品交換でカスタム化することも、広く行われてきたけれど。


もし、この”中華カーボンフレーム”が、まっとうな品質で、継続的にやっていける価格なのだとしたら、
これから、18年前のパソコンのように、競技用自転車も”自作”がはやるのかも知れない。
スキー板もテニスラケットも、がんがんやる人なら、2-3年で交換する。カーボンがへたるし、性能のいい新モデルが出るから。
自転車のフレームが3万円なら、同じように気楽に交換できる。
インテグラルヘッド・カートリッジBB・完組車輪のおかげで、高価な工具は使わないで済む。


僕がフレームメーカーの社長なら。
かつてのAcerASUSやGIGABITEたちのように、自社の存在と実力を、買い手に知らしめるだろう。
自社の名前を前面に出して、eBayに出品する。
価格は1.5倍にして、破損時の保証をつけ、個人向け受注発送の業務フローを整備する。
フレームを、マザーボードのように、一部品にしてしまう。
・・・完成車ブランドをコントロールしている、販社・商社が困るんだろうなぁ。でも、メカニック・販売店・競技者にはメリットが大きく、新しい需要が喚起されると想うなぁ。身体に合わせたフィッティング、商品選択へのアドバイス、走り方・整備・組み立ての技術指導などが、活性化するんじゃないかなぁ。


もっと堂々と、商売すればいいのに。
”名ばかりのブランド”が増えている今、ちゃんとした生産・開発・サポート能力を育めば、大きなビジネスチャンスがあるのになぁ。
いや、既に直売サイトがあるんだ!http://www.e-hongfu-bikes.com/#:title=E-hongfu-Bikes]・・・失礼しました。

メーカーに相当するのは英語で製造業者manufacturerといいますが、自社で製造せずに、他者で作ってもらってそれを扱う業者は英語ではサプライヤーsupplierといいます。英国発祥のラレー社も、自らサプライヤーと名乗っています。
デザインや企画を自らやる業者(で自分ではつくらない会社)はdesign companyとも呼ばれます。コルナゴなどはそう呼ばれています。
(中略)
日本では「メーカー」一本やりです。この言葉が誤解を生んでいると思います。

・・・ほんとは、どんな価値を創り提供している「メーカー」なのか。ものの生産?設計?企画販売?
僕たち日本人は、そんなところまできちんと観ないで、「誰が保証してくれるのか」だけを観ているのかも。だから「メーカー」のひとことで済ませてしまっているのかも。
新型インフルエンザ騒ぎ同様、なにがほんとに起きていて、どこをどうすればどうなるのか、きちんと突き詰めてとらえないのかも。