千葉県市川市イラストレーター、金斗鉉(とうげん)さん(55)はネパール・アンナプルナ連山のふもとの村と交流している。「お絵かき」を知らない村の子どもにその楽しさを知ってもらうためだ。今年2月に再訪したという。


 住民の平均年収約8万円という村に紙芝居や絵本はない。「子どもたちも絵を見たことがない」と学校を運営する知人の男性から聞き、絵の具、クレヨン、画用紙などの寄付を友人と募った。それを現地の小学校に届けたのは1年半前のことだ。歓迎されたが、見本画をまねるだけの子が多かった。現地の先生とも「描き方を指導すべきかどうか」でかみ合わない。「クレヨンはほかの村にあげてしまった」。そんなうわさも耳にし「外部の人間が行っても続かないのか」と気をもんでいた。


 杞憂(きゆう)だった。現地で見たのはびっしり描かれたお絵かき帳の山、山、山……。見本画にこだわらず、みんな自由にお絵かきを楽しんでいた。クレヨンはさらに貧しい隣村の学校に半分分けたらしい。何のことはない。地球の子どもはみんな芸術家だ。【大和田香織】


毎日新聞 2009年7月7日 東京夕刊