NHKスペシャル「2011 ニッポンの生きる道」

激しい円高、雪崩をうつ企業の日本脱出、雇用の崩壊…。得意だったはずの「ものづくり」でも韓国や中国に技術で追いつかれ、原発高速鉄道の受注競争などで競り負ける場面が続いている。しかし本当にニッポンは力をなくしたのか?まだまだ強みはあるのではないか?自信を持ってやるべきことをやり、変えるべきを変えて2011年を力強く歩み出す、年頭のメッセージを送る!
メインゲストは2010年のノーベル賞受賞者根岸英一博士。「悲観的な議論からは何も生まれない。前を向いて建設的に考えるべきだ」という博士の前向きな言葉から、番組は始まる。そしてニッポンが今も保持する「強さ」を確認しながら、しかし世界経済が大変革期を迎える中で「安くていいモノをこつこつ作ってさえいれば報われる」というこれまでの発想を根本的に変える局面にきていることを指摘。現場の取材を織り交ぜながら、どんな転換をしていくべきか専門家が具体的に提言していく。
そして就職難に直面するなど未来を描けない若者にも、根岸博士が熱いメッセージを送る。


【出演者】
・根岸 英一 2010年ノーベル化学賞 パデュー大学特別教授
・坂根 正弘 コマツ会長 日本経団連副会長
・米倉 誠一郎 一橋大学イノベーション研究センター長・教授
・藻谷 浩介 日本政策投資銀行参事役 「デフレの正体」著者
・真田 幸光 愛知淑徳大学教授 “草の根の辻説法師”
・関口 博之 解説委員
・伊東 敏恵 アナウンサー

実に見ごたえのある、有意義な番組だった。


はじめは、PCで作業しながら、流し聞きしていたのだけれど、
ひとつめのプレゼンテーションのあとの、出演者同士のディスカッションが、とても建設的で興味深く、以後見入ってしまった。
豊富な経験で磨かれた見識をベースに、具体的データ・実体験・実例に基づきながら、なにを為していけばいいのか明確に語っていかれる。


下記4つのプレゼンテーションがあり、都度それを受けてゲスト同士で語り合う・という構成だった。

  1. 実力ある中小企業よ、世界にはばたけ・・・真田 幸光教授
    • 世界に通用する力を持つ企業が、日本にはたくさんある。ただし、海外に目を向けていなかったり。
    • 円建て取引で、もっと高い価格でもいいから・とドイツ企業から熱望された事例
  2. 人口構成の変化とトップニッチ戦略・・・藻谷 浩介さん
    • 「安くていいモノ」戦略はもう通用しない
      • 人口増時代には、メーカーも消費者も流通も豊かになる戦略だった。
      • でも、人口減時代には通用しない。
    • トップニッチを目指せ
      • ブランド力。安さではない魅力
        • 日本が貿易赤字なのは、フランス・イタリア・スイス。スイスなんて人件費すごく高いのに、とても国際競争力がある。
        • 日本のライバルは、中国や韓国ではなく、ヨーロッパ。
      • 安くていいものは、他国で創ってもらって買えばいい
      • 日本には、トップニッチを目指せるちからがある
      • トップニッチをおさえていれば、市場が縮小しても、売り上げは落ちない。
        • 日本のバイク市場は縮んでいるけれど、ハーレーダビッドソンは売り上げを伸ばしている。独自の魅力があるから。
    • シンガポールは国内市場だけじゃやっていけないことが最初からわかってるから、国際的視野をはじめから持つ。日本はなまじ中途半端な大きさの市場がある分、内向きになりやすい
    • 若者にもっと厚く所得配分すべき
      • 世界一厚く保護されてる正社員、世界一保護が薄い非正規雇用、これを変える必要あり
  3. 解決策を売れ・・・米倉 誠一郎教授
    • 新幹線車両よりも魅力的なのは、平均18秒しか遅れない運行技術
    • 幅広い企業が連携してのスマートグリッド開発
    • コマツの建機リモート管理
      • 坂根会長がアメリカ担当時代、鉱山用の大型ダンプを無人走行化しようとした。「ダンプだけ無人化してどうするの?」調べたら、かなりの鉱山にすでに無線LANが導入されており、その65%はアリゾナ州の会社が開発したシステムだった→その会社に飛んで行って”会社を売ってくれ!”
    • もの→システム→夢 から 夢→システム→もの へ
      • IBMはスマートプラネット、Googleも大きなビジョンを。
      • 大きな夢を掲げ、その実現のために必要なシステムを開発し、場合によってはものを創らなくても実現(IBMの交通渋滞解消事例など)
  4. 画期的技術開発を・・・根岸教授
    • 世界を変える技術
      • 海中ウラン吸着精製実験
      • 人工光合成
    • 最優秀で多様なひとが集まる環境づくり


そして最後、ひとりひとりはどう変化すればいいか。
変化に流されるのではなく、
大きな夢をひとりひとりが掲げて、探究することで、全体もうまくいく。
その探究のためには、と、根岸教授が”発見の10項目”を紹介。
この10項目をマリオネットのようにあやつって発見。それが、開発・応用へとつながっていく。


印象深かったのは

  • 中国・韓国も、20年後、日本以上の激しい高齢化を迎える
  • アメリカの高齢者は、日本よりはるかに消費性向が高い。むしろ、いちばんお金を使う年代
    • 福祉の充実度はアメリカのほうが低い。よく言われる”福祉制度が不備だから、高齢者がお金を使わない”ではない。
    • 日本の高齢者は初めて豊かになった世代。一方アメリカは豊かになった第2世代だから、お金を残して亡くなってもなんの意味もないってことを、親を観て体験している。この違いが大きい。
    • おじいさんおばあさんと孫をむすびつけて、新市場を開拓した例が、マクドナルドのハッピーセット
  • これまで日本は知識偏重で、発見の10項目であげられているような要素 ”不屈な行動力”とか”作戦”とかセレンディピティをつかまえる力とか、を評価してこなかった
  • コマツ社員の出生率(メモとらなかったので不正確かも)、東京勤務は1.0、それ以外は1.3と全国平均並み、多いのは石川で2.0。で、専業主婦率は東京が高く、石川はほどんと兼業・ただし50代になると親の介護で辞める。
    • だから老人介護施設は石川にこそ充実させる必要大。処施策、全国一律ではもはやだめで、各地域にあった方策をとることでこそ効果があがる。
  • インド駐在、日本企業は”数年で帰りたい””単身赴任”。韓国企業は”10数年は居る””家族帯同””現地学校に通う”・・・そうして根を張って生活するからこそ、「TVの音をワンプッシュで大きくするリモコンボタン」「停電してもしばらく大丈夫な保冷庫」といった機能に思い至る。ニーズは現地のセンスで見出し、韓国のセンスでものづくり。
    • これ、日本の学校システムに起因する面もあるけれど、かなり企業次第で変えていける。コマツは役員の過半数が海外駐在経験者。すると”海外駐在はキャリアパスだ”という認識が社内に広がっている。国内でしか通用しない学歴システムへのこだわりさえも、企業の採用方針次第で変わりうる。←コマツ会長の発言。”自分にできることがある”という視点から観、生きておられる。それ自体がいいお手本。
  • KYではなくSY・数字を読む・で行こう←藻谷さんの発言。出席者同士の会話が弾む中で、都度的確な具体例を、すぱすぱっと提示されるので、ますます会話が建設的になる。素晴らしい。