かけがえの無い価値を、見出し、活かそう

再開発しなければ年間100億円の営業利益が入らず

驚いた。たかだか年間100億円のために、重要文化財級の建物を壊そうとしているのか・・・なんと智恵の無い。


僕は、建築については素人だ。
素人の僕でさえ、あの東京中央郵便局が(大阪も)、とても貴重な建物だということは知っている。
”モダン”という考え方を具現化した、ごく初期の建築。
あの建物を観れば、モダンとはなんなのか、民主主義が目指すものはなんなのか、体感できる。


遠望すれば、70年も前の建物には、見えない。
そりゃそうだ、あの建物が確立した考え方がずっと、今まで引き継がれているんだもの。
もっともここ20年ほど、また建物は、壮麗でご立派で権威主義な方向を目指すようになってしまったけれど・・・
だからこそ、モダンの”標準原器”として、保存する必要があると僕は想う。


数字では表しきれない価値を、数字にしていくのが、優秀な経営なのかもしれない。
重要文化財から、年間100億円以上の価値を見出し、生み出すことは、智恵次第で出来るはず。



JR東日本は、東京駅の丸の内駅舎を、復元する。
戦災で、外壁を残して焼け落ちているので、文化財としての価値は低い。それでもなお。
低層のまま丸の内側を保存することで、建蔽率の規定を駆使して、八重洲側に高層ビルを建てることができる・・・という智恵を使って。
そして、丸の内駅舎の復元により生み出される価値は、有形・無形とも、莫大なものがあるだろう。


かつてニューヨークには、2つの壮麗な駅があった。
1960年代、そのひとつ、ペンシルベニア駅の駅舎を取り壊し、マジソンスクエアガーデンという再開発ビルにしてしまった。
出来上がってしまってから、市民のあいだに猛烈な反発が生まれたそうな。
”かつて、ペンシルベニア駅のホームに降り立つたび、私はまるでGodになったような気がした。いまは、Ratになったような気がする。”
そのおかげで、もうひとつのグランド・セントラル駅は、今も保存されている。以後、近代の秀逸な建物も保存しようという動きが、活発になったそうな。


阪急梅田駅が、既存の建物の美点を上手に生かしながら再開発されてきたのは、時代的にはちょうどこの頃。
その阪急梅田でさえ、今、まるっきり取り壊して、立て替えをしている。
丸ビルも、新丸ビルも、外観にごくわずかイメージが残っているだけで、まるっきり風情の無い、ごく当たり前の建物になってしまった。
その一方で、三菱商事ビル・古河ビル・丸の内八重洲ビルの一括立て替えでは、昔壊した赤レンガのビルを、復元新築するらしい!



新陳代謝
なにを生かし、なにを消し去るのか。
150年前のものは、たぶん、貴重さがわかりやすい。
一方で、80年ほど前のものは、もしかしたら、もはや血肉となっているがあまり、あたりまえすぎて判りにくいのかもしれない。失ってはじめて、気付くのかも。


今世紀初頭には、今どうすべきか、どんな社会を目指すべきかのヒントが、たくさんあるように想う。
問題点も解決策も、その萌芽が、はっきりと見えやすい。
新古典様式→アールヌーボーアールデコ→モダン。この流れをみてるだけでも、感じるものが多々ある。
かつて、アールデコアールヌーボーが陳腐に感じられて、どんどん破壊された時期があったそうな。これからはモダンが、その時期に差し掛かるのだろうか。



国民の財産として建てられた、貴重な建物。
郵使会社に欠けているのは、財産一つ一つのもつ、”かけがえの無い価値”を、ピックアップし、生かそうとする姿勢ではないだろうか。


”十羽一からげ”で、楽に手抜きして、扱おうとした。不動産証券も、派遣労働の問題も、安売り競争も、そう言えるのではないか。
”かけがえの無い価値”を見出し、活かす。これこそが、資源を浪費することなく経済成長する、唯一の道なのではないだろうか。




南側の壁やひさしが壊され始め、内装もほとんどはがされていた。同相は視察後、「調査したいという文化庁の申し入れを日本郵政は拒み、調査させずにきた。そこに問題がありはしないか」と述べ、同社の対応を批判した。

それはひどい・・・調査さえさせないなんて。
考古学的遺跡を、調査発掘させずに破壊するのと、まったくおんなじじゃないか!

日本郵政は局舎 の保存方法について第三者有識者による「歴史検討委員会(委員長、早稲田大学特命教授、伊藤滋氏)」からの報告を踏まえて、今回の再開発計画を策定したとし、同様の発言は衆議院総務委員会においても日本郵政側からなされているが、実際には同委員会を構成する7名中、6名が全面保存を求めていた

うーん・・・・・そうまで無理押しして、破壊したいのか?
詳しい内容がこちらに

耐震工学の識者は「歴史的価値を損なわないよう、耐震壁などによる補強を推奨する」と、全面保存を前提に補強策を明示。建築史の識者は「近代建築史上、東京駅前を中心とする都市形成上、そして郵政事業という社会近代化の歴史全体にとって意味がある」とした。避難安全性を検証した建築防災の識者は「創建時の状態に、全館避難設備をわずかに増設すれば、多様な用途で安全を確保できる結果に驚かされた」などとしている。

なんと優秀な設計・・・。

 このほか、意匠などの識者が「広かった東京駅前の空の広がりをどう受け継ぐか神経を注ぐべきだ」「近代の建物で世界遺産への登録が検討されるときまっさきに候補になる」としたり、「古い建物がない町は記憶がない人間と同じ」という言葉を引用した識者もいた。


着工の告知がこちらhttp://www.japanpost.jp/pressrelease/2008/document/1001_00_05_2008062504.pdf
駅前広場側の外壁を残して、その上に、ガラス張りの超高層ビル。最近ありがちな・・・
周辺と一体開発すれば、明治生命館のような手法をとることもできるんじゃないかなぁ。

地上40階、地下3階、高さ187mの新ビルを2009年に着工、2012年に竣工する計画だと発表された[1] 。高層階は1フロア900坪ほどのオフィスビル、中層階には座席数1700席の劇場、低層階には郵便局や商業施設を設ける予定。 劇場はオリエンタルランドに賃貸し、運営を任せることで合意されている。

大阪のほうも、着工が迫ってるんだなぁ・・・

モダニズム建築の旗手」たちが設計した建築は既に築後数十年が経過して老朽化が進み、今日の目から見ればさすがに時代性を感じさせており、機能的にも不十分な点が見られる。「機能主義の建築は機能を全うしたら存在意義はない」という見方もあるが、モダニズムをも歴史の一つとして捉え、その保存を論じる必要性が問われている。ヨーロッパでは近代建築運動自体を歴史的に評価する見方が支持されているが、日本では今後の課題として残されている。


DOCOMOMOの全面保存要望書がこちら。http://docomomojapan.com/news_sozai/ketugo_cyuo1.pdf


安藤忠雄さんが、日本橋−東京駅−中央郵便局−三菱一号館とつながる”歴史の回廊”を提言して曰く

歴史資産を継承するには、ハードとしての文化遺産を活用する発想が不可欠で、旧税関もそれにのっとって新たな生命を吹き込まれるわけです。そして、なにより大切なのは、都市に対する思い。イタリアの人々にはそれがあるが日本はとなると。どんなにバーチャルな空間が広がっても、人々の暮らしは現実の都市にある。都市を維持更新し、よくしていく思いを、わが国の建築界も市民も政財界もどうやって共有して高めていくか。

”かけがえのなさ”の尊重、それが、”志の高さ”なのかも。