劇団四季 Wicked

楽しかった!!!
公演2日目で、この完成度。これからが大いに楽しみ。
スタンディングオベーション。僕の席から見る限り、立ち上がらなかったお客さんはひとりだけ。ずぅっと鳴り止まず、幕は7回は上がったかなぁ。出演者全員が両手を振り、さよならの意思を示して、それでもなお、かえって会場中が揃えての大きな手拍子で請求。もう一度幕が上がって、出演者と会場が手を振り交わして、ようやくすっと拍手が止まる。お客さんの息、ぴったり合ってたなぁ。


ストーリーが素晴らしい。

「お前の仲間に火をつけてやろうか?」(ToT)

オズの魔法使い”の、あれ?どうして???・・・という部分に、巧みに答えが提示されます。
なぜ勇気を、心を、思考を、失ったのか。なぜドロシーをあんなに追いかけるのか。なぜあんな台詞を吐いたのか。なぜ、なぜ、なぜ・・・。
そして、同じオズの物語世界を、まったく違った角度からみせる。

オズの魔法使い”って、夢分析なお話でもあり、各人の持つ”おはなし=世界観=意味づけ”のパワーを示したお話でもあります。”私はこういう人”という物語を書き換えれば、世界は、全然違って観えてくる・・・という。
”Wicked”は、”おはなし”の胡散臭さそのものを暴き出した物語だと言えるでしょう。こういうお話が、”対テロ戦争”なんていってる時代に出てくるというところに、アメリカの演劇人の凄さを感じます。


おはなしを書き換えれば、幸せになれる。
素敵なおはなしを持てば、幸せになれる。
・・・心理学はかつて、こう説いて、お話の書き換えを薦めて来ました。
でも、ほんとうにそうなんだろうか?
おはなしを都合よく操作しても、所詮、新しいおはなしに縛られるのでは。新しい問題を生むに過ぎないのでは。


事実を正直に見る。自分の肌の色、能力、どう感じているのか、なにに魅かれているのか。そして、正直に表現し、誠実に行動する。
ご都合主義でおはなしを操作するのではなく、愚直に、誠実に。
・・・その大切さが、説かれる機会が増えたように感じています。
そういえば、毎日新聞で連載中の”英雄の書”も、おはなしの胡散臭さをつづる小説になりそうです。
TDRの基調メッセージも、”夢を見つけ、信じよう”から、”自分を信じて、心のコンパスに従おう”へシフトしていくのかも。




長編ミュージカルを観るのは、ご幼少のみぎり(^^;を除いては、たしか初めてなのですが・・・
生声、生演奏は、やっぱりいい!
3時間の公演。粒ぞろいの出演者。
これを、わずか\10,500-で成立させている、劇団四季は凄い。連日満席だからこそだろうなぁ。


ヒロイン二人が、反目しあったり、友情を結んだり。ここにがっちりと感情移入できなかった。
自分の体験が重なりきらないからかもしれない。
いや、ダンスパーティーで仲良くなるシーンなんかは、かなり良かったなぁ。逆に、憧れ人をうしなったあとのシーンが、”えっ、そんなにあっさりでいいの?”と違和感が。
一方で、男女・親子・姉妹・師弟の情は、しっかり伝わってきた。特に、ヒロインが、自分の道を歩むと決意するシーンは、どちらも見事。
特筆は、オズの魔法使い役。からっとした善人に見える腹黒さ。お見事!


HKDLのライオンキング&ゴールデンミッキーや、TDRのいくつかのショー体験のような、”滝の涙”ではありませんでした。胸をきゅっと締め付けられる感じでもなかった。鼻の奥や脳みそのイメージがきゅんとする感じ。
魂に来るというよりは、思考に響くお話だからかもしれない。
男だから、政治的視点で観てしまうからかもしれない。
僕の中では、もうある程度昇華されていて、冷静に観ることが出来るテーマだからかもしれない。
2日目で出演者もまだ固く、踊りも歌も正確でうまいけれど、踏み越えた何かが、まだ出ていないからかもしれない。・・・これが一番大きいかな。


いや、僕自身、会場に向かう道中で緊張感が高まり。
第1幕は、首や肩甲骨が痛くなりました。
休憩でバドワイザーを飲んだからか(^^;第2幕は、そんなことありませんでした。身体の力を抜いて、夢中で観ることが出来た。でも、もしかしたら心が、ちょっぴり硬かったのかもね。


USJのWickedは、実に巧みにエッセンスを要約してあるなぁと感じました。
しかも、第2部のねたばらしは、きちんと避けてある。
出演者の技量も、劇団四季と遜色無い様に感じました。ヒロイン二人の友情と反目は、USJで観たときのほうが、僕はひしひしと感じられた。


ディズニーテーマパークのショーって、レベル高いなぁ・・・とも、あらためて想いました。
もちろん、公演は短時間だし、技量にばらつきがあったり、演奏や歌声が録音だったり、観る気満々の観客ばかりじゃなかったり。
でも、そんなとんでもない(^^;諸制約があるなかで、あれだけ質の高い感動がしばしば味わえる。凄いことです。



6/21追記
もしかしたら、僕自身が、自分の中のグリンダを抑圧しているから、グリンダに感情移入しにくいのかもしれないなぁ。
さて、グリンダは、あのあと幸せに生きてゆけるのだろうか。
それとも、オズ大魔王と同じような道を、歩んでしまうんだろうか。


幸せに生きることも、たぶん、出来るんだと思う。その分かれ道は、どこだろう?
誠意? すべてを愛するこころ? 内と外を隔てないこと?
・・・そのあたりなんだろうけれど、まだ、確信は無いなぁ。


おはなしから、自由になること。
もしかしたら、そうかもしれない。そう決意することなのかもしれない。
グリンダも、エルファバも。


結末を知った後で、「誰にも愛されること無く」という冒頭の歌を思い起こすと、”くっ”とこみ上げるものがある。おはなしの世界から出て行く二人を、視覚的にもはっきりと表現したラスト、お見事。