子供のころ、田舎の盆踊りは「輪になって踊るもの」だった。手本を示す人たちがヤグラの上で踊り、参加者たちはヤグラの周囲をゆっくり回るように踊った。やがてステージがヤグラに取って代わると、回転式の盆踊りは減り、祭りは参加者全員が正面のステージと対面する配置になった。

 結婚披露宴でステージ方式が主流になるのは1960年代らしい。それまでは、同じ卓に入った新郎新婦を、参加者たちがぐるりと囲む席次が普通だったという。やがて披露宴が「主役を見せるもの」に変わると、正面ステージに並ぶ新郎新婦と、参加者全員が対面する配置になった。

 大量の団地が建ち始めたのも60年代だった。それまでの一戸建ての民家は、出入り口が多かった。かしこまった訪問客は玄関から入り、御用聞きは勝手口を訪ねた。近所の人たちとは縁側で雑談を楽しんだ。やがて団地が普及すると、出入り口は金属製のドア一枚となり、住人はドアのある方向だけに注意を払えばすむようになった。

毎日新聞 2006年9月24日 東京朝刊