斜陽に立つ 最終回

結婚当初、姑の寿子が静子を嫌い、離縁して別の女性を家に入れようとしたとき、「離別すれば静子は死ぬでありましょう。あれがこの家を去るのは死骸になって出るときです」と、希典が言ってくれたと知り、号泣したあの感激の瞬間を、静子は忘れていなかった。このお人と生死を共にするという彼女の覚悟はそのとき決まったといってよかった。

憂い顔にままに乃木希典は、斜陽に立つ孤高の像を今の世に遺した。自敬に徹したこの最後のサムライにとって、世上の毀誉褒貶は無縁のざわめきでしかなかった。