プロフェッショナル ボリショイバレエ団唯一の日本人ダンサー 岩田守弘さん

開始10分後から観る。
元バレエダンサーの奥さん、二人の娘さん・・・可愛い!
地方都市での、前衛的公演の模様。
ずうっと踊りッぱなし。はるかに体力に恵まれた若いダンサーでさえ、舞台裏で両足がつる。38歳の岩田さんも、意気が上がり、足は痛み。
それでもカウントとともに、すぐ舞台へ。舞台では演じきる。
全力疾走。肉体的限界がちらつく年齢。しかし、いくつまでと考えず、がむしゃらにやりたい。
「舞台では、すべてが裸になる。やさしい人なのか、怖い人なのか、どんな人なのか、すべて現れる。だから怖い。」
ボリショイの重圧。「世界的大スターが、あの舞台に立つと、実力を発揮できなかったりする。」


控えめで、ストイックで、まじめで、芯が強い印象。北朝鮮に拉致抑留されてた蓮池さんのような・・・厳しい世界をくぐってきたんだろうなぁ。
スタジオで、まずジャンプを披露。
上体が綺麗ですねぇ・・・にっこりと、「いいところをちゃんと観てくれました!それがロシアバレエの特徴なんです」
派手なジャンプは、実はたいしたこと無い。小さなジャンプが大切。それで大きなものと組み合わせて、メリハリが出る。身体表現の奥深さ。パッションを筋肉で凝集しているかのような。
回転。いろんな周り方、速度、みな。ぱっ、ぱっと正面で顔が静止する。滑らかにまわりつつ、決まる。空中での回転でさえ。
軽やかなのに、重厚。
岩田さんの若い頃のVTRは、重力から自由であるかのように軽やか。そこに、魂の重みがのっているかのような重厚さ。
練習で一杯考えて、舞台では、無になら無いと出来ない。
回転してる間って、なにか考えてます?・・・「あ、考えてますね」・・・なにを・・・「神様、やらせてください、とか」・・・ぎりぎりのところ、出来るかできないかと言うところに、毎回挑戦してるんですね・・・「舞台は怖いです。すべてが出るから。いつも同じことが出来るようにって」

  • ボリショイ入団まで

父の影響でバレエを。
ソビエトに渡り、修行。コンクールで優勝もした。
ボリショイの門をたたく。しかし、ロシア人だけで構成されていて、まったく相手にされず。それでもあきらめず、働きかけ続けた。
ソビエト崩壊。ボリショイの体制も変わり、優勝したコンクールの審査員が監督に。初の外国人ソリストとして、研修生として入団!
しかし、役をもらえない。毎日ほかのダンサーの3倍の練習をし、技を磨く。認めてくれるひとも現れた。しかし大きな舞台の役は来なかった。
4年後 ボリショイの威信をかけた大作が。舞台監督に直訴、「バレエ学校の生徒にやらせるような役ならあるよ・・・」着ぐるみを着た猿、ソリストにとっては屈辱的オファー、しかし受ける。
”観客の印象に残る猿を”・・・研究を重ね、リアルな猿を演じる。わずか1分20秒の出番ながら、絶賛される!
翌年、白鳥の湖30年ぶりのリメーク、道化に抜擢。ロシアに渡って11年・・・


スタジオで。
友達、妻。一緒に悪口を言ってくれたり、アドバイスをもらったり。
芸術家の本能として、苦しさを求めるところって・・・あります。磨いてくれる。いいことばっかりだと心がすさんじゃう。苦しみを突破した経験を持つひとが、ほんとに人を感動させられる人だから、(目が実に柔和になる)自分もそうなれるかどうか分からないけれど、そこまで行きたい。
あぁ、ここに夢があるのか。だから、チャレンジし続けられるのか。

  • 38歳新しい朝鮮

芸術監督に呼ばれ、未経験の役・・・人気演目”明るい小川”のアコーディオン奏者役を、オファーされる。「いやぁ、こんなことがあるんだなぁ・・・」にっこにこ。
引退の近い時期のダンサーに、新たな役を与えるのは異例。「彼なら、新しい役を演じてくれると想ったんだ。」
レッスン。芸術監督の右腕が、マンツーマンで、役の特徴を伝えながら、振り付けを伝授。あぁ、先日観た映画「ブロードウェーブロードウェー」での、コーラスライン最終選考あたりと、同じ感じだ。
妻と、食事のあいだも、「これはソビエト時代に作られた劇で、社会を風刺してるの」「アコーディオン奏者は、都会の象徴で」と、役作りの参考になる、ロシア育ちならではの背景を教えてもらう。食事後は、書物で歴史を調べたり。
次第に、”単に楽しいだけでなく、リアルな人間を”。
3日後の練習 「いい感じ!」2週間後に芸術監督に見せることに。しかし足に強い痛みが。マッサージを受ける。
帰宅すると、6歳下の同じ第1ソリストが、家に。悩みを打ち明けられる。「肉体的にもきついし、精神的にも。同じ役を10人のライバルと競わなきゃいけない。」若手の台頭で、出演機会が減ってきてる。・・・なるほど。こんなふうに友人同士、支え励ましあってるんだなぁ。


「何かを計算して、力を配分してってのは好きじゃない。がむしゃらにやるのが、僕のスタイルだから」
ボルガ川の夕景。金色
芸術監督に見せる日が。開始してすぐ、ストップ。「もっとここで、こう足を高く上げて」
そして・・・わずか6分、OK! 舞台監督、「これなら、新しい役が出来る!」にっこりと。
「足を高くとか、技術的なことは言われたけど、表現については、これでいいみたいですね。あとはアドバイスにしたがって、練っていけば」と、安心した、充実した笑顔で。

  • プロフェッショナルとは

「どんなときでも、どんな場所でも、まわりがどんなでも、自分のするべきことをするひと」


”明るい小川”初日。素晴らしい演技、「今までに無い踊りを見たわ」と声をかける観客、カーテンコールに応える、深みのあるきりっとした笑顔。すこし風格が漂う。


うーん、表現に生きる人って、凄いなぁ。
舞浜で活躍するみなさんも、こんなふうに、たくさんの努力と熱意を傾けて、障害を乗り越えて、限界に挑戦して、ステージに立っておられるんだよなぁ・・・。
だから、感動する。
そして。
ベテランさんには、ベテランさんならではのなにかが、はっきりとある。
そのひとならではの持ち味って、経験とともに、どんどん磨かれるんだと思うなぁ。


ダンスは、身体を酷使するから、長く現役を続けるのは、とても努力が必要なんだろうと思う。それでも是非、たくさんのパフォーマーさんたちに、ながく活躍していただきたいなぁ。