毎日新聞夕刊 新幸福論 假屋崎省吾さん

幼いころから美への関心が高かったのですか。

という記者の問いに、育った家庭を語る。
地方公務員の父、専業主婦の母、省吾さん、妹さんの4人家族。石神井公園近くのちいさな都営住宅での暮らし。
貯金は一切せず、旅行・コンサート・おいしい物を食べるなど、一分一秒を大切にして生活を楽しむための「生き金」として使う。

そんなに豊かではなくても、みんながその折々に、自分ができる範囲で小さな幸せを見つけ、その積み重ねで大輪の花が咲くような生活を大切にしていました。

語られる思い出の、美しさ、温かさ。

美しいものをめでたり、花が咲くまで待って幸せを感じるということを、両親の姿を見て見よう見まねで学びました。
自分の、人と違う個性には小さいころから気づいていました。料理や音楽が好きで、野球にはまったく興味がありませんでしたから。けれど、父と母は「好きなことをやりなさい」と言ってくれました。好きなことを一生懸命やったら自分も前向きになれました。

  • 花をいけるとはどういうことですか。


この世に二本と同じ花はありません。(中略)(花・器・空間・いける人の四要素が)同じでも時期が違えば、いける人がいろいろな経験を積み重ねる中で感覚が変化していきますから、やはり一回きりの一期一会なんです。
すべての物は無二の存在で無駄なものはありません。だからこそ、今この瞬間を大切にしなければと思うのです。

  • 花の中から何を紡ぎ出そうとしているのですか。


花は自然の中で既に完成された美ですが、その素材でなければ持ち合わせない美しさやすばらしさを取り出し、新たな美を再構築するのが私の使命です。

それは生徒さんたちに対しても、同じ。

両親がそうしてくれたように、その人のいいところを見つけ出し、伸ばして差し上げる。すべての個性がよしとされる。それは幸せなことだと思いませんか。

生活の中にたった一輪でも花があることによって、「美しいな」って思う瞬間がある。その積み重ねで、生きていく勇気がわいてくるような力が生まれます。

日本の研究者の観察ですけれど、あるチンパンジーの群のなかに、決まって夕暮れ時になると群から姿を消す個体がいた。
 どこで、何をしているのか。研究者がつけていくと、そのチンパンジーは崖の端まで出かけていって、そこからサバンナの地平線に沈んでゆく太陽をじっと見つめているんだって。
 ぐーっと沈んでいくでっかい太陽を、身じろぎもせず…

もののこころを感じ、活かすか否かの問題なんだ。