ETV特集 ピアニストの贈り物 〜辻井伸行・コンクール20日間の記録〜

http://www.nhk.or.jp/etv21c/update/2009/1122.html
全盲のピアニスト・辻井伸行さん、バン・クライバーン国際ピアノコンクール20日間の記録。
とても見ごたえのある番組だった。


僕は昨年、辻井さんの演奏・・・たしかはじめてのオーケストラとの競演を、幸いなことに聴くことが出来た
”若い音”という印象ではあった。でも、全盲であることがハンディどころかむしろ、オーケストラとのアンサンブルに好影響をもたらしているかのような印象だった。


タイトルロールにかぶせて、今回のコンテスト出場者の演奏が次々と流れた。どれもうまかったが、その冒頭とラスト・辻井さんの演奏は、群を抜いて伝わってくるものがあった。
それに比べ、ソロリサイタルは、上手ではあるけれど、伝わってくるものが薄い。
アンサンブルのなかで、他の奏者と音のやりとりをリアルタイムで交わしながら・・・そこに辻井さんの素晴らしさが如実に現われるように、僕は感じた。
1日だけ来てくれたピアノの先生との、10時間に及んだ練習。先生がピアノで提案しながら、辻井さんがそれを受けて弾く。凄い集中力。楽譜に読み・書き込むのではなく、すべてを覚えねばならない。と同時にたぶん、あの練習過程がそのまま、コンチェルトの演奏過程・本番演奏での、音楽での他パートとの対話とおんなじなんだろう。
室内弦楽団もオーケストラも、リハーサルではタイミングへの不安と、通訳を介さねばならないことから、制限時間内では演奏意図を練り上げるには至らなかったみたい。ところが本番では、ライブな音のやり取りの中で、互いの意図を感じ取りながら、どんどん音楽の会話が深まっていく。

ノブユキは音でコミュニケーションする。だから彼と音楽を作り上げることは、難しくない。とても簡単。

言葉や目に頼っているのでは、むしろ曇ってしまうものが、ある。


ホストファミリーのこころづかい、
観客の関心の高さ、
室内弦楽団とオーケストラのレベルの高さ、
どれも素晴らしい。


出場者の中で、演奏が特に僕の印象に残ったのは、ポーランドからの男性ピアニスト。とても叙情にあふれていて・・・てっきり金賞だと思った(^^;
逆に、金賞を取った香港の男性は、演奏にぴんと来ず。ファイナル進出のインタビューで「素晴らしい演奏をしたひとが落ちたのが残念」と心底寂しそうな表情で語っていたのは印象的だった。
番組内で聴くことが出来たのはごくわずかな部分だけだし、伸びしろは後者の方が大きいのかもしれない。


ほかの若いピアニストたちも、みな素晴らしいテクニック。
そして、輝く瞬間があった。たとえばオランダの、27歳の女性ピアニスト。「コンクールへの挑戦は、たぶんこれが最後」そういって赴いたオーケストラとの競演。胸に迫るものがあった。あきらめないでほしいなぁ・・・。


バン・クライバーンさんのことを、まったく僕は知らなかった。
ソビエトが国の威信をかけて開催した、チャイコフスキーコンクールの第1回目で優勝した、アメリカのピアニスト・・・なんだそうな。
そのときの演奏、ちらりと流してくれたけれど・・・凄かった。オーケストラもクライバーンさんも。目が覚めるような。
これまでなんどもいろんな人の演奏で耳にした、あまりにも有名な曲なのに・・・。
それが、冷戦が激しかった時期だと想うと、余計に感慨深い。