毎日新聞朝刊 時代の風 「KY」の仕組み  斉藤 環(精神科医)

「空気」より「文脈」を読め

「空気」の組成はきわめてシンプルである。それは90%の「味方」と、10%の「敵(異物)」から成っている。善悪の対立に見えることもあるが、「空気」の本質がいかなる道徳とも無関係であることは「大和」の例が示す通りだ。

戦艦大和の特攻出撃の例を指しています。あらゆるデータがをの無謀さを示唆していたのに、戦争を知り尽くしたベテランのエリート集団が、「全体の空気」で出撃を決定してしまった。

この比率が壊れると、いかなる「空気」も霧散解消する。ひとたびこの組成を感知してしまうと、人は「空気」にとことん縛られる。とりわけ「味方(多数)の側でありたい」という強烈な感覚に。

空気による支配に甘んずることは、成熟による弊害のひとつだ。空気よりも文脈を読むためには、あえて「王様は裸だ」と叫ぶ子供を演ずるような一種の未熟さが必要なのかもしれない。